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いちごの妄想小説

初卒業式

ドキドキした―――

きっかけはほんの思い付きだった。

数日前から佐藤さんが緊張していて
何かあるの?と聞いたけどはぐらかされた後
ああ、卒業式なんだ。と気が付いた。

今年の卒業生は佐藤さんが受け持った初めての3年生の担任で
初めての卒業生になる。

その初めての瞬間をこの目で目撃したい!
なんてふと思いついただけだった。

卒業式って潜入できるかな?

紺スーツを着て、前に文化祭に行った学校にそっと父兄に交じって講堂に行く。
卒業式って第三者の目で見たことなんかないけど。
校長先生はいい話をしている。
これが生徒の心に響くにはきっと数年後なんだろう。
私自身も卒業の時に校長先生の話は響かなかった。

そのあとクラスに戻って最後のHR。
佐藤さんに見つからないように、廊下の端からそのクラスをそっと見つめる。

「君たちは今日でこの学校を卒業になる」

静かな声で佐藤さんは話し始めた。

「俺の手から、離れるんだ。
出来れば・・・君たち一人一人にこれから気を付けなきゃいけないことを教えてやりたいよ。
何年後に、こんなことが起こるからこの準備をしろ、とか
こんなことが起こるから気を付けろ、とか。
全員の未来を見に行って、全員にアドバイスしてやりたい。

けど、それは無理なんだ。
俺はただの担任で、君たちは明日から俺の手を離れてそれぞれの道に進む。

君たちは一人でこれからの人生を切り開いていかなきゃいけない。
俺は2年かけてその力を君たちが持てるように尽くしてきたつもりだ」

佐藤さんは泣きそうだ・・・

「これから今の君たちが想像もつかないようなたくさんの困難が襲うだろう。
でも、この仲間を思い出してほしい。
そして絶対に乗り越えられる自分の力を信じてほしい。
君たちの未来をいつまでも俺は見守っているよ」

最後まで泣きそうで泣かない佐藤さんの声は
小さく小さく震えていた。

私はそっとその場を離れて校門を出た。

これは佐藤さんにとっても儀式だ。

第三者が立ち会ってはいけない。

はーっ。
私も泣きそう。

さて、ご馳走を作って佐藤さんのマンションで待っていよう。

大事な教え子を卒業させた、佐藤さんにとって初めての卒業式を
二人で祝うために。

―――母校に遊びに行ってみようかな。
ふとそんな考えに、よく晴れた青空を見ながら泣き笑いした。


END*****





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by ichigo-ichigo205 | 2017-03-05 19:17 | ・同棲ラプソディー | Comments(0)