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いちごの妄想小説

謎のヒモ男

「半田。そう言えばこの前半田が仕事をとってきた会社な。
100周年での全社リフォームなんだってな」

同期の山田がそんなことを話しかけてきた。
「らしいね。でも良く知ってるじゃん」
「新聞に載ってた。で、大川孝志がついに始動するんだって。なんか聞いてる?」
「え・・・山田、大川孝志、知ってるの?」

なんで、コイツが知ってんのよ。

「なんでって、有名だろう?イタリアの賞を取った時にさんざんマスコミが騒いでいただろ」
「え・・・」
そうなの?
知らないのは私だけなの?

「ここ数年名前を聞かなかったけど、始動するんだな。業界紙に久しぶりに写真が載ってた」
「へ~・・・」
「凄いよな。一つのデザインでいくらぐらい稼ぐんだろうな」

私の半年分だってよ。

「そう言えば、半田A社の専務、怒らせたんだって?」
「・・・・あっちが悪いのよ。あんたたちは何でも知ってるのね」
「それが仕事ですから。まぁ半田がそう言うんじゃそうだろうな」

そんな言葉に嬉しくなる。
確かに向こうが悪いけど、悪いと今でも思っているけど。
それでも得意先を怒らせたのはまずかった。
落ち込んでいたけど、ちょっと気が晴れた。

「今日は同期で私を慰めなさいよ」
「は?」
「経管の3人、集合ね」
「いや。俺たち、色々忙しいから・・・」
「何、逃げようとしてるのよ!絶対に飲みに行くからね!」

そう息まいた7時間後。
数時間前にいつもの居酒屋に集合して
さんざん愚痴を言って、私は飲みつぶれた。

「おい。半田。帰れなくなる前に帰れ」

楠が私を揺らす。
ちょっと。彼女の扱いと大きく違うんですけどっ!

「ここに電話して。出た人に迎えに来てくれるように言って」

やっとのことでそれだけを言う。

「だれ?」
「半田のヒモだろ?」
「ああ。ヒモに来てもらうんだ」

ぼんやりと酔って寝た頭の片隅でそんな声が聞こえてきた。

ザワザワとうるさい居酒屋でうたたねするのは
酔った私には心地よかった。

どれぐらい時間がたったか知らない。
10分なのか、1時間なのか・・・

「スミマセン。陽菜が酔ったそうで」

「あ!」「あ!」「あ!」

大好きな大川さんの声が聞こえたと思ったら
経管の3人が同時に声を挙げた。

「大川孝志!」

山田が失礼にも呼び捨てした。

「大川さん。帰る・・・ぅ」
手を伸ばして大川さんの首に巻きつける。

「はいはい。車そこにとめてあるから。キミたちもありがとうね。
これ、陽菜の分ね。足りる?」
「あ。半田の分は俺たちで払うんでいいです」
「いや。陽菜の分は俺が払うから」
「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」
「ほら。陽菜。帰るぞ」

そのまま私は大川さんに抱えられて居酒屋を後にした。

「半田のヒモって大川孝志?」
「あれって本当に大川孝志?」
「でも大川さんって呼んでたぞ?」

それから3人は私と話すときに「ヒモ」という言葉を使わなくなった。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2014-10-07 07:00 | ・横浜ホールディング | Comments(0)