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いちごの妄想小説

けん制

今日の秘書課の噂話は「海外の森川さん」のことだ。
海外事業部の本部長が森川さんと一緒に南米に行って
契約をまとめるのに、彼の語学力と専門知識に感心したと
帰ってきてしきりに褒めるので秘書課の女性たちの噂話もいつも以上に花が咲いた。

「でも入社以来、一切飲みに行かないんですよね」
「同期では行ってるみたいよ」
「森川さんの同期って誰でしたっけ?」
「広報の加藤さんと、開発の金子さんよ」
「それは・・・揃いも揃ってイイ男ですね」

そんな声を後ろで聞いて。
話に加われば何かボロが出るかもしれないと、苦笑いしてやり過ごす。

そして、そんな私を見てさらに、すべてを知っている新田常務が苦笑いする。

「武田さんはこの三人のだれがタイプですか?」
「え・・・」
「海外の森川さんと広報の加藤さんと開発の金子さんですよ」
「あ・・ぁ」

この話には加わらないようにしていたのに
秘書課のみんなの目が答えを待ってきらきらしている・・・!

「森川さん・・・かな」

「ですよね~!」
「ええ~加藤さんも良くないですか?」
「金子さんもいいですよね」

そんな声にかき消され、常務が笑ったのをみんなは見逃してくれた。

そこに常務へ本部長の報告をもって秘書課にツカサが来た。

「森川さん!聞いてください。今森川さんの同期の話をしていたんですが
武田さんのタイプは森川さんですって!」
ちょっとっ!
「へ・・・ぇ」
「武田さんがタイプの人を言うのって珍しいんですよ」
「そうなんだ?光栄だな」
「・・・・」

「じゃぁ、今度二人で飲みに行きませんか?」

その言葉は、プライベートを明かさない森川さんの発言として
かなり衝撃的だったらしく。
あっという間に社内に広がった。

「もう。あんなことを言うなんて」
家に帰って二人で飲んでいるときに、思い出して軽く文句を言ったら。

「たまにはけん制かけとかないとね」
「けん制?」

「そう。俺が狙ってるんだぞオーラ」
「ええ~」

「常務、笑ってたわよ」
「だな」
「紗江子さんは海外の森川が誘っても乗らないって噂がたてば誘いも少なくなるだろ」
「ずいぶん自分に自信があるのね」
笑いながらそういえば

「そう思ってもらえるように頑張ってる。
少しでも秘書課の武田さんにふさわしい男としてみてもらえるように全力を尽くしてる。
これから先、二人の関係が何らかの形で明らかになった時に
不相応だと思われないための努力は惜しまない」

そう言ってまっすぐな目で私を見つめた。

「うん。ありがとう」

嬉しくなってにじんだ涙を見られないように
ギュッとツカサに抱き付いた。

END****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-05-17 12:21 | ・キスの花束を | Comments(0)