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いちごの妄想小説

親友

梅雨が終わりそうな7月の蒸し暑い夜。
仕事を終えた駅までの道のり、疲れた肩に手を当てて首をぐるりと回した。
「陽菜」
後ろからちょっと太い声で呼ばれた。
「あ~。良治クン」
大川さんの、学生時代の友人だ。

「あんたバカなの?何回も言ってるけど、アタシはリョウコよ」

見た目は綺麗なおねーさんだ。
声を聞かない限り、男だとは分からない。
もともと華奢なんだろう。たち振る舞いに疑問もない。

「あ。ごめん。リョウコさんも帰るところ?」
「もう8時よ~?アタシだって帰るわよ。陽菜もあんまり遅くなると
孝志が心配するわよ」
リョウコさんは大川さんの事が好きだ。
それを私に隠さない代わりに、私の事もちゃんと大川さんの彼女として扱ってくれる。

「今日ね大川さん仕事で遅くなるんだって」
「へぇ。じゃぁ、ご飯一緒に食べて行く?」
「リョウコさんのおごり?」
「あんた、えげつないわね~。あんたの方が稼いでるでしょう?」
「そんなことないよ!ただのOLだもん。リョウコさん歯医者さんじゃん!」
「あたしは雇ってくれるところがないから手に職稼業なのよ!」

およそ歯科医には見えない色っぽい恰好で、きっと胸も私より大きいリョウコさんは
「割り勘よ。女同士なんだから」
と笑った。
「そうね。割り勘で行きましょう」
サバサバしているリョウコさんとの飲みは楽しい。

リョウコさんの知り合いのお店で美味しい物を食べて飲んで
酔ったところでいつものように寝てしまった。

「なんで、お前と陽菜が一緒に飲んでるんだよ」
孝志の仕事が終わったころを見計らって
陽菜と一緒にいることをメールで知らせる。
案の定、予想した時間よりも早く孝志が店に着いた。

「女子会よ」
ニヤッと笑ってそう言えば
真剣な顔をした孝志が一呼吸置いて
「俺はお前が良治でもリョウコでも親友だと思ってる」
「うん」
「けど、陽菜と2人で飲むのはもうやめてくれ」
「・・・・昔の孝志の女遊びをばらされると困るから?」
真面目な顔の孝志をはぐらかそうと誤魔化したら
「茶化すなよ」
と、タバコを吸いだした。

「お前の最後の最後に残ってる男の部分を信用できないだけ」
「・・・・」
「女子会だと言い張るならそれでも良いよ。
でも、お前に残ってる最後の男の部分と陽菜を2人で飲ませたくない」

「1%もないのに?」
「たとえ、0.1%であっても、男と陽菜を飲み会の席で2人にさせたくない」
「・・・・・」
「悪い。お前の事100%女だと思えない。俺がお前の親友である限り
男だったあの時代を忘れることは出来ない」
「・・・・」
「お前を100%女だと思ったら、楽しかったあの時代を否定することになる」
「・・・・ずいぶん陽菜に惚れてるのね」
「まぁね」

孝志は最初にアタシを理解してくれた人だった。

だから、消したくても消せない0.1%の男の部分を表面に出して話題にされるとは思いもしなかった。

「悪い」

もう一度言ったその言葉のあと、タバコを灰皿に押し付けた。

少し重くなった空気の中、陽菜がアタシたちの声で目を覚ました。
「あ。大川さん。リョウコさんが呼んでくれたの?」
「そうよ。あんた寝ちゃうから」
「ごめん。会計して」

そういう陽菜に、気まずい雰囲気を作った孝志がお財布から1万円札を出した。
「陽菜の分」
そう言った孝志の手を陽菜が押しとめる。

「これは女子会だから。綺麗に割り勘なの。それに自分で払うから」
そう言って陽菜はバッグからお財布を取り出す。

何も言わないアタシと孝志をしり目に店員からレシートを受け取って
お財布を探った。

「はい。5,824円。きっちり半分ね」
「うん。楽しかったわ」
「私も、リョウコさんまた誘ってね」
「おーけー。今度は孝志も一緒にね」

そう言ったアタシを一瞬だけ、ほんの一瞬だけじっと見つめた。

「そうね」

そしてそんな時間はなかったかのようににっこり笑う。
勘のイイコね・・・
アタシと孝志の空気を読みとったんだ。

「おやすみ」

そう言って帰った2人を見送って、帰る気にならずにもう1軒寄ることにした。

「親友かぁ。まぁ・・・いいか」

翌日、ニュースで梅雨明け宣言をしていた。


END******





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by ichigo-ichigo205 | 2016-06-28 15:41 | ・出会いは必然に | Comments(0)