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いちごの妄想小説

夏の名残り

桃花が周りをきょろきょろと見回して誰も俺たちに関心を払っていないのを確認したうえで
校舎の裏に俺を引っ張って行った。

「何?次の講義始まるぞ」
「講義どころじゃないんですよ!」

慌てた声で、シィと声を小さくしろと俺を叱った。
なんだ?

ここでもまたきょろきょろして
誰もいないのを確認するとそっとポケットから小さな小瓶を出してきた。

「やけに可愛い瓶だな・・・?」
「駅前のファンシーショップで2コ100円だったそうです」
「へ~・・・」
興味ないけど。

「で?」
「光先輩、今から言うことナイショに出来ますか?」

白木が仕組んだ一件以来、こいつは堂々と俺の名前を呼ぶ。

「出来るけど?なに?」
「この小瓶の中の液体・・・」

なんだか綺麗なピンク色の液体が少量入ってる。

「フェロモンの液なんですよ!」

は?

コイツ真面目に言ってんのか?

何も言わない俺に、業を煮やして
「そこは『マジで』とかビックリしていいところです!」

いやいやいやいやいやいや!
マジで言ってんのか?とはビックリしたけどね。

「誰にもらった?」
「白木先輩です」
「へ~・・・」

やっぱりな。
あいつは、近頃桃花で遊んでる。

「んで?それをどーしろって?」
「そっと匂いをかがせると良いらしいのですが
光先輩、がっつり匂いかいでください!!!」

あ~・・・そゆこと?

「はいはい」

俺はちっちゃいコルクの蓋を開けて中の匂いを嗅ぐ。

「どうですか?」
「うん。なんか桃花のこと好きになった気がする!」
「えっっ!マジですか?」

こんなことマジで信じてんのか?って俺が言いたいよ・・・

「もっとかいでください!」
「桃花・・・これ以上俺を夢中にさせてどーすんだよ」
「せんぱい・・・」

「喧嘩した時のためにとっとけ」
「はいっっ!」

「ほら次の講義に行くぞ」
「はい!」

全く白木は、ろくなことしねーな。

俺はため息をついて教室に入る。
1番後ろの席にそっと座る。
それを見た白木が荷物を持って隣に移動してきた。

「かいだ?」
クックックと笑いながら聞いて来る。

「あれ、かき氷のシロップだろ」
「綺麗な色だろー?妹が昨日、もう食べないから捨てるって言うからさ」
「・・・・」
「ダイブツちゃん信じてた?」

信じると思ってやってんだろうが?あ?

「素直で信じやすいのは乃恵ちゃんと同じだな」

軽く殴ろうと思っていたこぶしをひっこめた。
こいつは長い間、乃恵に片思いをしてる。
絶対に報われない片思いで、正論から言えばやめた方が良い。

でも、いいじゃんか。
好きなだけ、気がすむまで片思いしてりゃぁいい。

「お前も幸せだな。あんな嘘を信じちゃうほど、
ダイブツちゃんはお前が好きなんだな」
「・・・・」

お前だって、本気に片思いできる相手に出会えて幸せだよ。
そう言ってやろうとして、俺は口を閉じた。
他人が口出すことじゃねぇ。

俺は何も言わずに、聞こえないふりをした。


END*****






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by ichigo-ichigo205 | 2017-09-10 13:25 | ・キスの後で… | Comments(0)