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いちごの妄想小説

ありがとう


時間どおりに店のシャッターをガラガラと下ろしていると
店の前にある自販機から「ガラン」と缶が落ちる音がした。

「毎度」

そう言いながら自販機の方を見ると麻子で
ビックリしている俺をよそに、もう1本ビールを買った。

「何?海外行ったんじゃないの?」
「里帰りよ」
「ふ~ん」
「仕事終わったんでしょう?奢るわよ」

そう言って、今自販機で買った缶ビールを1本よこした。

「・・・・サンキュ」

店の横路地にあった形の違う椅子を2脚持ってきてエプロンを外して軽くふいて麻子に渡した。
麻子は小さく笑ってそれに座る。
俺ももう1つに腰かけて、ビールのプルタブをプシュッと開けた。

先に栓を開けて待っていた麻子と缶を合わせて乾杯した。
まさか麻子と2人で飲む日が来ようとは思わなかった。

「レンはまだ結婚しないの?」
「もう少し、な」
「ふ~ん」
「麻子は?上手く行ってんの?」
「愛されてる」
「あっそ」

「そして、私も愛してる・・・」
「・・・それはよかったな」
「・・・うん」

「麻子さぁ、前ハルトに・・・・
俺が梨乃の事を好きだってばらしただろう?」
「どうだったかしら」
「前にハルトから電話がかかってきた」
「へぇ」
「それで、決心して梨乃に連絡をとる事にしたんだ」
「ふ~ん」

疲れた身体にビールがしみる。

「ありがとうな」
「・・・・」

「ずっと言いたかったんだ」
「電話をしたのはハルトよ」
「ハルトにはもう言ったよ」
「・・・・」

麻子と会う日は月が良く映える。
こいつが結婚する前に会いに来た夜も月が綺麗だった。

「俺が梨乃を好きだって、どうして分かった?
ハルトさえ気が付かなかったのに」
「・・・・」

麻子はじっと月を見てゴクッとビールを飲んだ。
静かな夜にその音は響き渡った。

「レンはいつも切なそうに梨乃ちゃんを見ていたわ。
そのしぐさと、視線が、梨乃ちゃんを好きで好きでたまらないって感じだった」
「・・・・」

「私を許せない顔で見て、梨乃ちゃんとハルトを応援してたのよね」
「・・・・」
「いつもじれったかった。梨乃ちゃんを奪えばいいのに。
そうしたらハルトが私のモノになるのにってずっと思ってた」
「・・・・」
「意気地無しだって思ってた」

「その通りだよ」

「違うわよ。私たちの中で1番大人だったのはレンよ。
梨乃ちゃんを1番に考えて。梨乃ちゃんをそっと見守って。
それがレンの愛なんだよね」

「でも、麻子にはばれてたんだろう?」

学生時代の青い思い出が照れくさくて
少しふざけた口調でいえば

「バレバレよ」

麻子は月の光に包まれてそう笑った。



 しのぶれど色に出にけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで

――恋心を誰にも知られないように秘めてきたが表情には出ていたらしい
    悩んでいるのかと人が尋ねる程に――
(百人一首 40)






Commented at 2018-04-08 00:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ichigo-ichigo205 at 2018-04-09 02:25
悠ちゃん
うわぁお!お久しぶりです。お元気でしたか?
久しぶりのコメ嬉しいです!
そんな感想を言ってもらえてうれしいです。
こちらこそ何回も読んでくれてありがとう。
これからもよろしくお願いします。
p.s.たまぁぁ~に、元気だよコメくれると嬉しいです~♪
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by ichigo-ichigo205 | 2018-04-04 13:00 | ・好きと言って | Comments(2)