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いちごの妄想小説

風が吹き始める日

由布子さんと結婚しようと決めて
善は急げと準備をする時点で

案の定、というか、ここか、というか、想定内、というか
結婚にストップがかかった。

母親「たち」だ。

「博之があんなことになって、由布子さんと思い出に浸り合っていたことは
今となっては申し訳なかったと思うわ。
私が寂しいから、由布子さんを道連れにした感じになってしまったけど
由布子さんは早く博之を吹っ切って幸せを探さなきゃいけなかったのにね」
「おばさん・・・」
「でも、ごめんなさい。信之も私の大事な息子なのよ。
博之を忘れ切れていない由布子さんと一緒になっても幸せになれるとは思えないわ」
「・・・・」

「私も、反対よ」
由布子さんのお母さんが静かに話し出す。
「博之君と由布子は誰しもが結婚すると思っていたわ。
だから博之君があんなふうになったときの貴女を母親でも見てられなかった。
加賀さんと博之君の思い出を話すことで保っていたのよね。
でも、それと、博之君の弟の信くんと結婚するのは別よ。
貴女、一生博之君から離れられないわよ」

2人の言葉はそれぞれの子供を思いやる気持ちで
俺たちはそれが分からないほど子供でもなく
反対を押し切ってまで結婚する気はなかった。

「全員に祝福してほしい」

由布子さんが俺に出した唯一の結婚の条件だったからだ。

うん。俺も全員に祝福してほしい。

兄貴にも―――

「二人の心配は良く分かるよ」
「信之」

母親の辛い顔を見るのは俺も辛い。

「でも、別に俺たちは兄貴を無理に忘れようとはしていないんだ」
「信之!」
「信くん・・・」

「俺たちは兄貴の思い出も含めて結婚したいんだ」
「・・・・」

「決して傷の舐め合いじゃないよ」
「・・・・」
「本当に穏やかな気持ちで兄貴を含めて、なんだ」
「・・・・」

「俺の人生で兄貴を消せるわけはないし、由布子さんの人生でも、だ」
「うん。そうなの」
「母さんたちも、だろ?」
「・・・・」

「忘れる必要はないんだ」
「信之」

母さんが人前で兄貴の事で泣くのは久しぶりだ。
母さんはずっと独りで泣いていた。

「でも、なんだか信之が可哀そうに思えて」

あぁ、俺のために泣いてくれてるのか。

兄貴が亡くなって、しばらく母さんの頭の中は兄貴の事だけだった。
母さんの生活の全てが兄貴のことを想い出すことだけで費やされた。

俺は半分は忘れられた存在で
兄貴を思い出させるこの顔は
大人しく過ごすことがこの家での暗黙の了解だった。

そんな俺のために泣いてくれるんだ。

俺も母さんの息子なんだな。

「可哀そうなんかじゃないよ。
最高に幸せだよ。兄貴が亡くなって6年。
やっと由布子さんが俺に振り向いてくれたんだ。
やっと兄貴が俺に由布子さんを託してくれたんだ」

「・・・・」

「だから、全員に祝福してほしい。
母さんにも。由布子さんのお母さんにも」
「・・・・」

「あなたは、それで幸せなのね?」
「もちろん」

「由布子は?博之君の『弟』じゃなくて信くんが好きなのね?」
「うん」

全員に祝福してほしい。
一点も曇りのない心で。

なぁ、兄貴。祝福してくれるんだろう?

さて、み~んなで式場見学に行くか!

END****





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by ichigo-ichigo205 | 2018-08-19 11:14 | ・蛍の想ひ人 | Comments(0)