カテゴリ:・恋心あれば水心( 7 )

懸賞 懸賞

花火大会④

懸賞 2018年 08月 26日 懸賞


横浜駅はものすごい混みようで、浴衣姿のカップルがどんどん根岸線のホームへ向かって行く。
今日は横浜の花火大会だ。

昨日山田さんから急に
「明日の花火大会、行ける?」
と電話があって
「行く!」
と即答した。

「楠に誘われてるけど、楠のマンションでいい?」

近頃経管は忙しくて
山田さんとのデートもままならないから楠さんや野口さんに会っていない。
チコちゃんや花ちゃんにも会いたい。

「うん。おじゃましたい」
「じゃぁ、言っとく。料理は花ちゃんが作ってくれるらしいから
酒だけでも持って行こう。
あ、あと、浴衣で来いって」

そう言われてお母さんに慌てて浴衣があるか確認して。
お母さんの若い時の浴衣をタンスの奥から引っ張り出した。
レトロな柄がとってもかわいい。

「買いに行けば?」
とお母さんは言ったけど。これがいい。
お母さんがお父さんとデートの時に着た浴衣だもの。

「山田さんまで浴衣だとは思わなかった!」
人混みの中で待ち合わせ場所にいる山田さんは
早く来ていたのか少し着崩れていて、それもかっこいい。
「野口が着て来いって言うから」
そう笑ってから

「のぞみちゃん、浴衣姿可愛いね」
そう言って、会社での顔からは想像できないほどやさしい顔で
その場でパシャっと二人の写真を撮った。

「常務に送ってやろう~っと」

ニヤニヤしながら携帯を操作して。
なんだかんだ言いながらお父さんと仲がいい。

山田さんは私の手を取って、人の波に乗った。

「今日は浴衣の女の子が多いな」
近頃はまた浴衣ブームだ。
「でものぞみちゃんが1番可愛い」

照れもせず、優しく笑いながら山田さんはそう言ってくれるから。
この浴衣着てきてよかった。

「山田さんもかっこいい」

私たちは人混みの中でギューッと手をつないだ。

END****








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by ichigo-ichigo205 | 2018-08-26 14:18 | ・恋心あれば水心 | Comments(0)

他の人のチョコ

懸賞 2016年 01月 31日 懸賞

山田さんが珍しく早く帰れるというので
エントランスで待ち合わせをした。

「お待たせ」
そう言って現れた山田さんのスマホが震えたので
「悪い」と言って山田さんは電話を取る。

「岡部?久しぶり。うん。
ああ、サークルの飲み会か。今年は岡部が幹事か、
うん。参加するよ。
え?柳下?ああ、参加でいいんじゃない?一緒に連れて行くよ」

そう言って電話を切った。

「柳下さんって、広報の?」
「ああ、同じ大学の同じサークル」
「へぇ・・」

意外なつながりがあるもんだ。

そう思っていると山田さんがプッと笑いだした。
「何?」

「いや。岡部と柳下で思い出したんだけどさ。
今の電話の岡部って大学時代、凄いモテたんだよ。
でも、小さい時のトラウマとかで
『この世に愛なんかねぇ』とか言って、散々オンナと遊んでたくせに
今の奥さんの乃恵ちゃんと会って、恋に落ちたんだけどな?
乃恵ちゃんはミッションスクール出で愛が大事って女の子なわけ」

「へぇ~・・・」

「で、付き合いだして初めてのバレンタインに、
岡部は色々悩んだ訳だ」
そう言ってまたプププッと山田さんは笑った。

「乃恵ちゃんて真面目な子でさ。
バレンタインなんか関係ないです!って言いそうな子なんだよ」
「うん」
「で、岡部はそんなことを初恋の相手から言われたらショックだから、
自分から色々理由を付けてバレンタインはやらない方向に持って行こうとした訳」
「うん」

「でも、チョコがもらえることが分かって、岡部は有頂天でさ~」
「・・・・」
「お前今まで山ほどもらってるだろうって」

そう言ってまた笑うけど。
「山田さんはどうなの?沢山もらってるの?」
忘れようとしていたあることを思い出した。
「え?」

「去年のバレンタイン。同じ部の女の子にチョコをもらってたわよね?」
「はぁ?」
「私見たんだから!」
「どこで?」

山田さんは今までの冗談めかした雰囲気から一転して
真面目な顔になった。

「ご・5階の給湯室前」

「ふ~ん」
ふ~んって・・・なに?

「それって最後まで見た?」
「見れる訳ないじゃない!見たくもないよっ!
せっかく・・・忘れようとしてたのにっ!思い出しちゃったじゃない!」

この話を持ち出したら、絶対に喧嘩になる。
そう思ってみなかった事にしようと決めていたのに。

「で?今まで黙ってたわけ?」
「・・・・」

そこでガバッと後ろから抱きしめられた。
「バカだな。最後までいればよかったのに。
ちゃんと断ったよ。のぞみちゃん以外から何か貰う訳ないだろ。
来月のバレンタインも楽しみにしてる。
もちろんチョコはのぞみちゃんからしかもらわないよ」

そう言って耳たぶを噛んだ。

「居酒屋に行くのやめ。俺の部屋に行こうぜ」

山田さんはそう言って、赤い顔の私を隠すように会社の前でタクシーを拾った。


p.s.そんな私たちを苦笑いとともに広報の加藤さんと柳下さんが見ていた。


END******
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by ichigo-ichigo205 | 2016-01-31 05:18 | ・恋心あれば水心 | Comments(0)

名前を呼んで

懸賞 2015年 06月 11日 懸賞

「山田さん、お誕生日おめでと~う」

そう言って会社帰りに二人で軽く食事をした後、ケーキを買って
シャンパンを買って山田さんのマンションに来た。

「のぞみ、今日泊って行かれる?」
座りながら後ろから抱きしめられて耳たぶを噛みながらそう言った山田さんが
次の瞬間、うなだれた。

「ダメだ・・・泊らせることは出来ない・・・」
「?」

私も泊る気で来たんだけど。
「なんで?」

「今日、帰り際に野口に『今日は誕生日だからのぞみちゃんとデートか?』って言われた」
「うん」
「経管に常務が来てるときにわざわざ言いやがった」
「うん」
「今日、のぞみが泊ったらまずいと思う。俺と一緒だって分かってるからな」

私は苦笑した。
山田さんは父に忠誠を誓っている騎士の様だ。
親は、何回か私が山田さんの家に泊ったのは分かってて知らぬふりなんだと思う。
だから今日も平気だと思うけど。

山田さんが私を大事にしてくれているのは痛いほど良く分かるから。
「じゃぁ、終電で帰る」
「あぁ。ごめんな」
「ううん」

もちろん山田さん自身が彼女である私の父と気まずくなるのも嫌だろうけど
それ以前に、私と父の関係を考えてくれているんだと思う。
ありがとう。

「はい。山田さん。これプレゼント」
そう言ってプレゼントを渡す私をじっと見つめる。
「なに?」
「のぞみさ、俺の名前知ってる?」
「え!知ってるよ!」
「山田、じゃないよ。下の名前」
「知ってるよ・・・」
「じゃぁ、誕生日ぐらい名前で呼んでよ」

そういって再び後ろから、耳たぶを噛んだ。

「たかゆ・・・んっ」
「はっきり言って」
「たかゆ・・き」

「ん。これからプライベートは名前で呼んで」

そう言ったけど、のぞみちゃんの『山田さん』は直らず。
まぁ、良いか。と思う。

近い将来、のぞみも『山田』だから。
そうしたら、俺の事はなんて呼ぶんだろうな?
楽しみだ。

俺は俺の名前がなんだかとっても特別なものに思えた誕生日だった。

END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-06-11 17:00 | ・恋心あれば水心 | Comments(4)

タイミング

懸賞 2015年 05月 31日 懸賞

会社の3階は、ワンフロア全部を使った大きな会議室で
机を取っ払って椅子だけを並べると
本社にいる社員がほぼ全員座れる。
机を並べると、1番大きな会議室になって部長以上の全セクションのトップ会議が行われる階だ。

逆に言うとめったに使われない階でもある。

午後から、経理部に来客があるからコーヒーの準備をしていたら
お砂糖のスティックが人数分ないのに気が付いて
3階ならめったに使わないから、借りてきて後で補充しようと考えた。

給湯室で探していると声がした。
珍しい。3階に誰かがいるなんて。

「総会前のトップ会議は席順を考えなきゃいけないでしょ」
女性の声?
「めんどくさいな。役職順に割り振ればいいだろう」
山田さん?
「色々、部ごとの兼ね合いがあるのよ。真剣に考えてよ」
「席なんかどうでも良いだろ」
どうやら、次回のトップ会議の席順をめぐって進行役の経管が実際に見に来たらしい。

「真剣に考えてよ。・・・私の・・・この前の話。真剣に考えてくれた?」
「・・・・」

なに?急に声のトーンが変わった?

「あのさぁ。俺はきちんと断ったよね?何を考えろっていう訳?」
「・・・・そんな言いかたないじゃない」
「じゃぁ、なんて言ってほしいんだよ?」
「・・・・」

「のぞみがいてもいいから。なんてバカな考えはやめろ」
「私が良いって言ってるのよ」
「だから。そーじゃないだろ。のぞみの気持ちは無視かよ。俺の気持ちは?」
「・・・・じゃぁ、山田の気持ち・・・は?」

山田?呼び捨て?
あ・・・!経管の山田さんの一期上の人だ。

「のぞみ以外の女に興味がない」

「はっきり言うのね」
「この前も言ったと思うけど?」
「・・・・」
「もうこの話はこれで終了にして」
「・・・・」
「普通に仕事したいんだけど」
「私とは、仕事以外興味ない?」
「興味ない」
「そっか」
「もっと自分を大事にしろよ」
「・・・・」
「彼女に夢中の男なんか構うな。自分のことを1番にしてくれる男を選べよ」

給湯室に隠れて。
ドキドキしながら盗み聞きをした。

足音が遠くなるにつれて力が抜けて座り込んだ。
タイミング悪いな。聞きたくない事まで聞いちゃった。
お砂糖のスティックを握り締めて「部に帰らなきゃ」と立ち上がった。

「今日、早く終わりそう。久しぶりに飲みに行こうか」
そう山田さんからメールが入っていたのを
「今日は先約があるの」
と断った。

しばらく顔を合わせたくない。

帰って、夕飯も食べずに布団にもぐりこんだ。
何も聞いてない振りをしなきゃいけない。
あの人は経管でも仕事ができて素敵な人だ。
山田さんの相手が私でいいのか怖くなる。

布団の中で不安になっていると
部屋がノックされて、「のぞみ」と山田さんの声がした。

なに?なんで家に山田さんがいるのよ!
「上がってもらったわよー」なんて呑気なお母さんの声が聞こえる。

「何かあった?」
ベッドのまくら元に座りこんで薄暗い中で私に話しかける。

「仕事で何かあったか?」
ううん・・・
私は静かに無言で首を振る。

「また村上にいやなことされたか?」
ううん・・・

「じゃぁ、どうした?」
「私、今日・・・・・・・・3階にいたの」
山田さんには隠し事をしても無駄だ。

「3階?・・・あ・・・ぁ。もしかして聞いた?」
うん。
「大丈夫。のぞみが心配することじゃないよ」
「でも!」
「聞いてたんなら分かるだろ?
俺はのぞみ以外は他の誰の事も1ミリも好きじゃないよ」
「うん」
「のぞみだけ。心配させてごめんな。大好きだよ」

そういって笑いながら私の涙を拭きとってくれて。
キスをしそうになった時に・・・

「あら。ごめんなさい」
と、お母さんがお茶を持ってきてくれて開けっぱなしのドアから声をかけた。

「お母さん、タイミング良すぎです・・・」

と、うなだれた山田さんがちょっと可愛かった。


END******
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by ichigo-ichigo205 | 2015-05-31 05:00 | ・恋心あれば水心 | Comments(4)

社内報・新企画!

懸賞 2015年 03月 07日 懸賞


「山田さん」
「柳下か。久しぶり」

食堂を出るところで声をかけられた。
大学時代からの後輩だ。
「社内報で新しい企画を考えているんですが何かないですか?
もう締め切りギリギリなんですがいい企画が思いつかなくて」
社内報ねぇ・・・
どれだけ社内報なんかみんな読んでいるんだろう。
でもそれをいつも真面目に編集しているこいつを嫌いじゃない。

「あんなのお偉いさんの自慢話でも載せときゃいいんじゃないの?」
どーせ、上層部しか読まないんだろ。

「それじゃ今まで通りじゃないですか。
何か若い社員でも読みたくなるような社内報を作りたいんですよ」
「ふぅ・・・ん」
「ただ配られるだけの社内報なんかその役割がもったいないじゃないですか」
確かにな。
「お偉いさんから若い人まで、読んでくれるようなものにしたいんです」

こいつ・・・
いくつ下だっけ?
3つ下・・・か。
へぇ。自分の仕事にプライドを持つようになったか。

「1つ・・・いい企画があるんだけど」
俺はニヤッと笑った。
「なんですか?」
「上層部ににらまれるかも♪」
「いいですよ。俺が責任を持ちますよ。スキャンダルや悪口や
人を蹴落とすタイプの記事じゃなければ」

「いや。めでたい記事だ」
「めでたい?」

「今月のカップル。恋愛中だろうが既婚だろうが
二人のラブラブの記事を書けば読むんじゃないか?」
「カップル・・・ですか」
「そうだ」
「・・・・いいですね」

へぇ。こいつ大学時代は真面目一本やりだったのに。
会社で、もまれたか。
ま、そんな冗談も人生には大事だ。

「でも出てくれる人いますかね?」
「俺が出てやる」

これはまさに我ながらいい考えだ。

「写真もある」
「彼女いたんですか?」
「ああ。めちゃめちゃかわいい子だぞ」
「いいですね。運命の人ですか?」
「うん。運命だな」

運命・・・だと思う。
どんなことをしても、手に入れたい。
そんな風に思った女の子は初めてだ。

「今から部に帰ったら画像を柳下に社内メールするよ」
「すみません。彼女の簡単なデーターもくれますか?
言える範囲で結構です」

「ああ。経理部の新田希望だ」
「え!山田さん、社内恋愛だったんですか?
社内報で出しちゃって平気ですか?」

「平気♪みんなに公表したいんだ」

どんなことをしても手に入れる。
どんなチャンスも見逃さない。

希望ちゃん、覚悟しろよ。

俺は心の中でガッツポーズをした。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-03-07 16:47 | ・恋心あれば水心 | Comments(0)

私だけの・・・・

懸賞 2014年 07月 20日 懸賞


「新田さん。これ、先日の新田常務の出張精算。お願いします」

常務である父の秘書、武田さんが出張の精算を持って経理部まで来た。
武田さんはすごく綺麗な人で噂では40歳ぐらいなんだけど。
全然そんな風には見えない。
父も絶対的に信頼を寄せていて、父と私が父娘なのも知っている。

「はい。ありがとうございます」
「のぞみちゃん。たまには帰りに飲みに行かない?」

武田さんは私が入社した時からたまにこんなふうに誘ってくれる。

「わ。早く帰れるんですか?」
「うん。たまにはね」
「じゃぁ、今日、いつもの居酒屋で」

そんな風に待ち合わせをして、6時頃仕事を上がって武田さんと飲みに行った。

「のぞみちゃん、経管の山田くんと付き合ってるんですって?」

少し酔いが回ってきた頃、そんな話を持ち出された。

「秘書課まで噂が流れてるんですか!」
「それもあるけど。ほら、山田くんたち三人は新入社員研修を新田常務が担当したから」
「あぁ~」
「常務も未だに気にされているみたいだし」
「そういえば、経管の同期は三人なのになんでツートップって呼ばれてるんですか?」
「山田くんと野口くんと楠くん?」
「はい」

武田さんクラスになると、彼らも「くん」なんだな。
そんなことを思ってちょっぴりおかしくなる。

「楠くんは割と早めに結婚しちゃったから」
「?」
「ツートップって確かに仕事ができるって意味も含むけど
女子社員の結婚したい相手ランキングって意味よ」
「えぇ!」
「だから、既婚者の楠くんはランキング外ってわけ」
「はぁ~なるほど」
「楠くんも仕事面では負けてないわ」
「ですよね」

「そのツートップの一人と付き合っているのぞみちゃん。山田くんはいかが?」
「う~ん」
「優しい野口くんに比べてちょっと斜めに構えている山田くんは意地悪って噂だけど」
「え?」
「まぁそこがいいって意見もあるわね」
「・・・・」
「彼女としてはどう?」

「確かに野口さんほど優しくないんですよ」
「あら」
「野口さんの彼女になったことはありませんけど。たぶんそうです」
「ふふふ」
「でも、なんていうのかな。いつも守ってくれてます。
父に認めてもらえるように仕事でも頑張っているのを知ってます。
本人は何も言わないですけど。野口さんとはまた違った優しさで
私のことを好きでいてくれます。それはすごく伝わってきます」

なんて酔った勢いもあって熱弁したら。

「武田さんもひとが悪いな」
と、苦笑いした山田さんが後ろにたっていた。

「山田さん!」
「武田さんにたまには飲まないかって、誘われた」

そう言いながら私の隣に座った。
「俺が来てから、そんな話をのぞみに振るんだもん」
「だって~。聞いてみたかったんですもん。
若い子には野口くんのほうが人気があるみたいだけど
のぞみちゃんは山田くんのどこが好きなのかな?って」

「野口の方が人気があるなんて心外だな」
そういって笑い出した山田さんをみながら
「でも、年上には意地悪そうな山田くんの方が人気よ?」
とフォローも忘れない。さすが秘書課。

「どんどん人気が野口さんに行って山田さんの人気がなくなればいいのに」
「おいおい・・・」
「私だけが山田さんを好きならいいのに」

あ。少し酔ったかも。

そんな風に思った瞬間
ガシッと山田さんにホールドされた。

「俺はのぞみちゃんだけっっ!」

そんな私たちを見て武田さんが笑いながら
「生3つ!」
と大声で注文した。



END****
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by ichigo-ichigo205 | 2014-07-20 21:34 | ・恋心あれば水心 | Comments(0)

大好きなヨウちゃん♪

懸賞 2014年 04月 23日 懸賞

「今日、19時からだよね。定時で上がって急いで行こう!」
「もちろん。ヨウちゃんとの約束の時間に遅れる訳にはいかないもんね」
「ヨウちゃんに会うのひさしぶり!」

久美とそんな社内メールを送りあって
私は必死に仕事をする。

今日は何が何でも会社を17時に上がりたい!

本当は残業したほうがいいか…という仕事には目をつぶる。
ヨウちゃんに会いに行くのに明日に回せる仕事は明日にする。

二人で待ってましたとばかりに定時で上がり
急いでロッカールームで着替える。

エントランスに17時10分に着く。
上出来だ。

急いで出ようとしたところを
「希望!」と引き止められる。
ちっ。
はしたなくも舌打ちした。

「ごめん急いでるんだけど」
山田さんにかまっている暇はない。

「ヨウちゃんに会いに行くから?」
「っっ!また社内メール読んだのね!」

もう。プライベートもあったもんじゃない!
って、社内メールで連絡する私たちが悪いけど
就業中にスマホを出して堂々とメールするよりは
社内メールの方が上司を欺きやすい。

「後でメールする。今急いでんの」
そう言って振り切ろうとすれば
「おい!ヨウちゃんって誰だよ!!」

「・・・・」

呆れた。
人の社内メール勝手に読んで(就業中だけど)
勝手に勘違いして
勝手にエントランスで待ち伏せして。

「山田さんさぁ。束縛し過ぎ!」

冷めた目でそう言えば
目に見えて、ガーンとしてる。

「そんなに束縛したら息がつまるんですけど」

追い打ちをかけた発言に目を見開いた。

「あの。ヨウちゃんってサッカー選手です。
今から私たち、等々力にサッカーを見に行くんです。
約束の時間って言うのは、ゲームの始まる時間です。
自由席だから急いでるんですけど」

久美の仕事よりも真剣な言葉に山田さんは、え?と驚く。

「希望がナンパされないように私が責任を持って見張ります。
だから、行ってもいいですか?」

言葉づかいは丁寧だけど
はっきり「希望の手を離せ!」と要求している。

「あ・・・あぁ」

久美の真剣な言葉に押し切られるように私を離した。

久美と私はお目当てのサッカー選手を見に
年に数回、直接スタジアムに観戦に行く。
結構、熱烈なファンだ。

「山田さん、ヨウちゃんって聞いて、すぐに分からないほど
希望の趣味を知らないんですね・・・」

クスっと笑った久美に山田さんは何も言えない。

「ほら行くよ!」
私たちはそんな山田さんにかまっている暇もなく
少しでもいい席に座るためにエントランスを飛び出した。


「あぁ~ぁ。余計なことしてグサリと来ちゃった♪
だから、やめとけって言ったのに」

後ろの方で観ていた野口が口笛を拭くようなニヤニヤ顔で出てきた。

「でも。合コンだと思ったんだよ・・・」

「山田に見られていると分かってて合コンの約束を社内メールでしないと思うけど?」

そりゃそーだ。

「そこまで束縛しない方がいいんじゃないのぉ~?
これから社内メールしなくなっちゃうよぉ~?」

「野口だって、チコちゃんに着信拒否されたことあるだろ!」
「山田だって希望ちゃんに一方的にメール送ってた時があるだろ!」
「俺は希望に着信拒否にはされなかった!」
「俺はチコちゃんの趣味を知ってるぞ!『俺と』一緒にDVD見るんだ!」

『うるさ~い!!!』

俺たちのエントランスでの言い争いをある声が一蹴した。

「あんたたち、バカじゃないの?エントランスで大声で!
30過ぎの男が二人で!バカじゃないの?」

半田だ。

「重要なことなんだよ!」
「半田はヒモの心配でもしてろ!」
「ヒモじゃないわよ!」

俺たちは3人でしばらく言い争っていた。

その頃、希望ちゃんが等々力で目をハートにしていたことなんか俺は知らない。



END****
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by ichigo-ichigo205 | 2014-04-23 23:23 | ・恋心あれば水心 | Comments(0)