カテゴリ:・田園シンデレラ( 7 )

懸賞 懸賞

花火大会⑨

懸賞 2018年 09月 03日 懸賞


田舎のお祭りは威勢がいい。
特に夏まつりは、お盆休みで帰省した若者たちが集まって
普段の町の人口の何倍かに膨れ上がる。

小さい時に行ったお祭りに、奥さんや子供を連れて自分の田舎を誇りに来る。
そしてご先祖様の霊を慰めるように華やかに花火が上がる。

箪笥の1番下の引き出しの奥に、豪のお母さんの浴衣が仕舞ってあったのを見つけたのは夏の衣替えの時だった。

「あ、おふくろの」

それだけ言って懐かしそうにその浴衣を着た私を豪は眺めた。

「ばあちゃんが、盆休みに来るおふくろのために用意してたやつだ」

豪の父親の故郷のこの土地にはお盆休みに毎年家族で帰って来ていたらしい。

でも結局、豪の両親はこの土地にUターンする事はなかった。
都内と横浜の一等地に有名なレストランを開いて、今は豪にレストランの経営を任せて
横浜で優雅に暮らしている。

私も横浜に帰るとお邪魔する。
2人の息子たちはこの夏中、横浜に遊びに行っている。

「へぇ。懐かしい。その浴衣を着たおふくろと俺の小さい頃の写真がどこかにあったはず」
「わ!見たい!」
「探してやるよ」

「響子が着てくれて、ばあちゃんも、喜んでる」

そう言った豪は日焼けしてがっしりした身体に浴衣が良く似合ってる。
前が少しはだけて、やけに色っぽい。

この浴衣はおばあさんが豪のために縫った浴衣だ。

「私より色っぽい・・・」
ちょっと拗ねてそう言えば
「何言ってんだよ」
そういって、私の胸元に手を入れようとする。
「もう!」

おいたする手をパチンと叩いて

「奏くん達も来るんだから。いい子にしてて」
「はいはい」

痛くない癖に痛そうに手首を振った。

「こんばんは」

ガラッと引き戸を開けたその先には、同じく浴衣姿の奏くんと茜ちゃんがいて。

茜ちゃんは初めてのこの土地に戸惑いながらも嬉しそうに下駄を鳴らしていた。

「奏くんのお母さんが私にも浴衣を用意してくれていて」

あぁ、上手く行ったんだ。
奏くんとお母さんはピアノの事でギクシャクした関係で
そのまま海外留学をしてしまった奏くんは、やっと数年振りかでお母さんに会いに来た。

自分の息子に過度な期待と重圧を与えてしまった後悔と、そして隠しきれない息子への落胆を
小野寺さんはいつも悔いてきた。

奏くんも、母親の期待に応えられない自分と、その自分を受け入れてもらえない葛藤の中で
母親に甘えたい時期をずっと孤独に過ごしてきた。

いくつになったとしても、和解出来て良かった。

「さぁ、行きましょうか!」

ドーーーンッッッ

と、花火の一発目が上がる音がした。

「茜さん早く!」
「待ってよ」

先に玄関を出た2人を嬉しそうに見る私に
「響子、帰ってきたら一緒に風呂に入ろうぜ」
なんて、豪がニヤッと笑った。

「じゃぁ、みんなにりんご飴買ってよね!」

私は笑いながら玄関をかけだした。

END*****





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by ichigo-ichigo205 | 2018-09-03 15:25 | ・田園シンデレラ | Comments(0)

おかえり

懸賞 2018年 04月 23日 懸賞

響子が学生時代の友人の結婚式に出席するために横浜へ出かけた。

結婚式を真ん中に挟んで2泊して来いって言ったのに
結婚式の当日の今日、始発で横浜に帰りやがった。

たまには横浜の親のところで甘えてくればいい。
俺がいくら甘やかしたところで、それとはまた違うだろう。

久しぶりのひとりの夕飯に
「何食べるかな」
思わず出た声に、時間が経つのが遅く感じられた。

「そろそろあがるか」
日が傾いた頃、畑から腰をあげ
明日の天気を予測する。
「晴れか」
アイツ、明日は何時ごろ帰ってくるんだろう。
横浜に迎えに行ってやろうか。
そうだ。家に帰って迎えに行くと連絡しよう。

そう思い立った時、向こうから結婚式に出席した服のまま響子が駆けてきた。
「豪!やっぱり帰って来ちゃった」

ココに『帰ってくる』と思うオンナ。

「何?そのカッコで帰ってきたの?」
俺も気づかないふりして『帰ってくる』というフレーズを使う。

「着替える時間も惜しくて」
ココには不釣り合いの服を着て
ココでは歩きにくそうなヒールを履いて
ココでは誰もしていないような髪を結いあげていた。

「明日迎えに行ってやるって連絡しようとしたんだよ」
「え!そうなの?嬉しい。でも明日まで待ってられなくて」
「そうか」

厚手のビニールで出来た農作業用の手袋を外して汗をふく。
ビニールのはずなのに、指先は土で汚れていた。

いったいどこから土が入るんだか。

綺麗なカッコをした響子とは正反対で
土で汚れた服と手では、響子を抱きしめてやれない。

そんな俺の手を響子は両手で握った。
「おい。汚れるぞ」
「いいの。今日もお疲れさま。ひとりでありがとう。
凄く楽しかった。また明日から頑張るね」
そう言って俺の手を握る響子の指先は服や靴や髪型とは正反対に何も飾っていなかった。

「マニキュア」
「え?」
「マニキュア塗って行かなかったのか・・・」

綺麗にはしているが、飾っていない響子の手を見る。
「変?」
「変じゃないよ。綺麗だよ」
畑で働く手だ。

「俺と一緒に働く手だ」
「うん」
「帰るか」

帰ったらすぐにフロに入ろう。
綺麗に土を落として好きなオンナを抱きしめよう。

「綺麗だよ」
「えー。やだ照れるじゃん」
「愛してるよ。シンデレラ」

そう言ってそっとキスをする。
灰をかぶっても、土がついても
誰よりもきれいだよ。

「豪も」
「ん?」
「豪も誰よりもカッコいい」
「そうか」
「うん。結婚式に来ていた新郎の友人の誰よりもカッコいい」
「土まみれの手でも?」
俺は嬉しくなってニヤッと笑った。

「この手がカッコいい。
この手であの野菜が生み出されてるなんて凄いよ。
横浜でひょろっとした男性を見て
豪に会いたくなっちゃったから帰って来ちゃった」
「ふ~ん」
「豪は?豪も寂しかった?」
「あ?」
「だから!私がいなくて寂しかった?」
「寂しくねーよ」
「え~」

「恋しかっただけ」

そう言ってそっと響子にキスをした。

END****









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by ichigo-ichigo205 | 2018-04-23 14:00 | ・田園シンデレラ | Comments(0)

カンチガイ=ヤキモチ

懸賞 2017年 01月 05日 懸賞

正月が過ぎた3連休に、石島と篠塚がそれぞれの彼女と嫁を連れて
泊りで遊びに来ると連絡があった。

それを聞いて響子が張り切っている。

近所の家に行き、郷土料理を教えてもらって作り
この土地ならではのお節に、と準備は万端だ。

「あんまり張り切るなよ」

夏よりも冬の方が時間が取れるだろう、と
俺たちに気を使ってこの時期に来るんだろうけど
響子がこんなに張り切るとは思わなかった。

「何そんなに、張り切ってんだよ」

畑から抜いてきた大根を数種類の料理に仕上げて
ずっと台所にこもりきりなのが面白くない。

「石島さんと久しぶりに会うから」
「あ?」

「だから。退職してから、私が横浜に帰る時に入れ違いでこっちに来る事はたまにあったけど
ちゃんと、腰を据えて話すの久しぶりだな、と思って」
「なんだそれ?」

この料理も、張り切るのも石島のためだって言うのかよ?

「お前、石島のためにこんなに張り切ってるの?」
「え・・・」

思いもしなかった答えに、イラつきMAX。
石島のせいで、俺はここ数日相手をしてもらえない訳?
石島のせいで、響子はずっと台所にいる訳か?

「断ろう」
「ええぇ?」
「来るなって言おう」

大人げないとか関係ねぇし。

そう思いながら、台所に立つ響子を後ろから抱きしめる。

「お前は俺のモンだ」

当たり前だと思っていたことを、改めて口にする。

「ちょっと。豪。離してよ」
「いやだ」

抱きしめていた手をゆっくりと身体中に這わせる。
顎をとらえて後ろを向かせて無理やりキスをした。

「ん・・・っ」
「お前は誰のモンか言ってみろよ」

「豪・・・っ。ちょっと待って」
「なんだ・よ」

身体ごと俺の方を向かせてギュッと抱きしめた。

「違うって!何ヤキモチ妬いてんの!」
「あ?」
「石島さんに、私は退職して幸せですって、ちゃんと示したかったの」
「・・・・」

「あんな急に退職したから。迷惑かけちゃったから。
ちゃんと幸せですって石島さんには分かってほしいから」

ぎゅっと俺の服をつかんで「ばか」といいながらキスをする。

そのキスに応えて深く舌を入れた。

「やっぱ、断るか?」

耳元で小さく言ったその言葉に
響子は大きく笑った。


END*****





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by ichigo-ichigo205 | 2017-01-05 21:09 | ・田園シンデレラ | Comments(2)

気象予報士

懸賞 2016年 05月 13日 懸賞

「豪~!明日は3時から雨だって」

夕飯を早めに食べてのんびりしていると、
「早めに風呂に入る」
と、いつもより早い時間にお風呂掃除をしに豪が浴室に行った。
私はテレビの天気予報を見ながら浴室の豪にそう言った。

「3時じゃねぇよ」

そう言いながら、私を迎えに来て
抱きあげてお風呂場まで連れて行く。

「そうなの?」
「あぁ。昼前には降りだす」

豪はテレビの天気予報を信用していない。

「今日の昼過ぎから、虫の飛ぶ位置が低かった」
「はぁ?」
「湿度がかなり高くなってる」
「あ・・・そう、なの?」

私を器用に脱がせて、そのまま抱き上げて2人でザバンと湯船につかる。

「夕焼けも綺麗だっただろ?」
「うん」
「明日は昼前から雨だよ」
「へぇ~・・・」

「だから、今日の午後はあんなに仕事を急いだの?」

そういう私の身体中をなでる。

「へぇ。仕事が違うって気が付いたか?
響子もだいぶ使えるようになったな」
「もうっ!」

怒ってお湯をバシャッと豪の顔にかけた。
「おい!」
そう言いながら、濡れた前髪を右手でかきあげるしぐさはやけに色っぽい。

「明日は昼前から雨だから、畑仕事は休む」
「え?そうなの?」
「あぁ。朝に虫の駆除だけ俺が一人で行く。
後は今日の分も終わらせたから大丈夫だ」
「え?虫パトロール?私も行くよ」

そういう私に、片方の眉毛をあげてニヤッと笑った。

「明日は休むつもりで、今日の夜思いっきり可愛がってやる」
「え・・・・」

「お前、俺が本気出すと朝起きられないだろう?」
「・・・・」
「だからここのところ思い切り抱いてないからな」
「・・・・」

「今日はずっと可愛がってやるよ。
朝、起きられたら一緒に行こう、なぁ?」
「・・・・ばか」

笑いながらそう言うから。
私は柄にもなく赤くなって、豪の肩に顔を隠した。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2016-05-13 13:57 | ・田園シンデレラ | Comments(0)

冬が来る前に

懸賞 2015年 07月 26日 懸賞

夏の終わりに。
都会から響子を奪ってきて。
始めは元気だった響子がここのところ少し元気がない。
ふとした時に何かを考えているようだ。

この前来た時のように、いつか帰るということを前提にしない田舎暮らしが
だんだんと負担になってきたのかと不安になる。

そう。純子みたいに―――

同じ過ちは繰り返したくない。
何より。
響子を手放したくない。

問題に直面するのが怖くて
それでもあの時、話し合いが足りなかったことを反省して
眠りに入りそうな響子の髪を撫でながら話を切り出した。

「響子、しばらく横浜に帰るか?」
「え?」
「少しゆっくりしてくるか?」
「・・・・なんで?」

「夏野菜も落ち着いたし」
「・・・・なに?暇になったから帰れってこと?」
「ん?そんなこと言ってないだろ。慣れない畑仕事で疲れたんじゃないかと思って。
少し横浜でゆっくりしてくればいいよ」
「なんでそんなこと言うの?」

「なんでって・・・」
お前を失いたくないからだよ―――
1番肝心なことは言葉にならなくて。

「私平気だよ」
無理するなよ。先は長いんだ。
長くなきゃ困るんだよ。響子。
ずっと一緒にいたいんだ。

「やっぱり、一緒に暮らしていくのは無理だと思った?」
それはお前じゃないのか?

寝そうだったのに、今は布団の上に正座して今にも泣きそうな顔でじっと見つめる。

俺は軽く目を閉じて大きく深呼吸した。
匂いが・・・秋の匂いになってきてる。
季節が変わる。
俺たちの関係も・・・変わらなきゃいけない。

「響子。近頃疲れてると思ったからだよ。
無理をしてほしくないんだ。ずっとお前と一緒にいたいんだよ。
ここでの暮らしが横浜育ちの響子に辛いことも分かってるつもりだ。
だから、少し休んでおいで。元気になってまた帰って来いよ」

「もし・・・帰ってこなかったら?」

怖いことを平気で言う・・・

「迎えに行くよ。何度でも」

当たり前だろ。

次の瞬間に寝ながら響子を見つめていた俺に響子が飛びついてきた。
「良かった。私、手放されちゃうのかと思った」
「まさか」

「元気がなかったのはね。夏野菜が終わって畑が急に寂しくなって
収穫も少なくなって忙しさも落ち着いてなんだかさみしくなったの」
「そっか。でもそれが無農薬だ。うちはハウスもやってないから
完全に旬のモノだからな。冬は収穫が減るのはしょうがない」
「うん」

「だから、いろいろ考えたの!」
「うん」
なにを?

「夏は収穫がありすぎて、レストランでも賄いきれない分があるでしょう?」
「あるな」
「ご近所も野菜を作ってるからさしあげることもめったにしないし」
「まぁな」

「私、宅配サービスをやろうと思って!」
「は?」

「余った分だけ、お分けします。ってネットで完全予約制の
宅配サービスを来年の春から始めようと思うの!」
「・・・・」
「どう思う?」

寂しいと1分前まで涙ぐんでいたオンナが・・・・
きらきらした瞳で、嬉々と語りだした。

「今からホームページを作れば来年の春の注文に間に合うと思うの!」
「うん」

「いいかしら?」

横浜にしばらく帰そうと思ってたのに・・・
帰せなくなっちゃったな。
俺は嬉しくなって、ギュッと響子を抱きしめた。
このオンナは強い。

「レストランの分だけ確保出来れば残りの野菜を
どうしようと任せるよ。ただし無理のないようにな」
「ありがとう!私のOL生活で身につけたパソコンも役に立つね」

私でも役に立てることがあってよかった~
ここでは教えてもらうばっかりで役に立っていないような気がして
逆に私がいないほうがスムーズなんじゃないかなって思っていたの。
と、にこにこ笑うけど。

そばにいてくれるだけでいいんだよ。
そばにいてくれるだけでいいんだ。

肝心なことはやっぱり口に出しては言えなくて。
それでも

「愛してるよ」

これだけは、毎日伝えようと思った。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-07-26 17:07 | ・田園シンデレラ | Comments(2)

春の約束

懸賞 2015年 02月 27日 懸賞

毎年この時期に1枚だけハガキがポストに舞いこんで来る。
裏は毎年同じだ。
サークルのメンバーで飲み会に参加している純子の写真だ。
この笑顔はもちろん俺に向けられたもんじゃなくて。

大学時代からずっと純子の事が好きだった矢沢に
向けられてるものだ。

ここの生活に馴染めなくて。
横浜に帰った純子が心配で、俺は矢沢に連絡した。

俺を責める言葉なんか一言も言わずに
「任せろ」
そう言ってあいつは電話を切った。

純子を傷つけたのは俺だ。
いい加減な話し合いでここまで連れてきた。
慣れない田舎暮らしで純子の事を思いやる気持ちも足りなかった。
今なら、純子の気持ちも分かるのに・・・

「ごめんね。もう無理」泣きながら言った最後の言葉が突き刺さった。

任せられるのは矢沢しかいなかった。
俺は、ここを離れる訳にはいかなかった。

でもそんなもの、今となっては全て言い訳だ。

数年たって、純子と矢沢の結婚式の報告のハガキがポストに舞いこんだ。

あ・・・ぁ。結婚したんだ。
幸せになったんだ。良かった・・・・

それから毎年、サークルのメンバーの飲み会の後に
飲み会での純子の写真だけのハガキが送られてくるようになった。

矢沢の笑った顔が目に浮かぶ。
「片桐、純子はこんなに幸せに笑ってるから。お前も出てこいよ」
そう言ってる気がする。
事実、そうなんだろう。
毎年、純子の笑顔を見てほっとする。

そして
「純子は俺が幸せにしてるんだよ。お前の顔見たって平気だよ」
と、矢沢のドヤ顔が目に浮かぶ。

「豪~。手紙?」

農業用の手袋を外しながら、袖口で汗をぬぐう響子が笑いながら歩いてきた。

「響子」
「ん?」
「来年、俺の大学のサークルの飲み会に一緒に行くか」

じっと俺を見た響子は何かを感じてた。

「うん。一緒に行こう」

チンゲン菜ももうすぐ収穫だ。
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by ichigo-ichigo205 | 2015-02-27 07:00 | ・田園シンデレラ | Comments(6)

バッティングセンター*

懸賞 2014年 11月 27日 懸賞

片桐さんが休みをくれた日曜日。
隣の・・・と言っても車で5分だけど。
隣の大学生が遊びに連れて行ってくれるらしい。

「響子よ。よろしくね」
「響子さん。で?どこに行きたいの?
こんな田舎じゃ行くところもそんなにないけど」

「ん~・・・」

「バッティングセンター、あるよね?」
「そりゃバッティングセンターならあるけど」
「じゃ、そこに行こう」
「って。響子さん、着替えたほうがいいんじゃない?」

上から下まで玄関の鏡で確認する。
きちんとセットされた髪に、スーツにヒール。
うん。いつもの私の通勤スタイル。

「平気。これが1番慣れてるから」
「へぇ・・・」

近所のバッティングセンターは本当に土地にモノを言わせ
横浜のそれとは規模が全く違った。

「え?90キロ行くの?響子さん、初心者は65キロからだよ」
「私、初心者じゃないもん」

仕事で、理不尽な目に会った時
得意先で嫌な思いをした時
私は会社帰りにバッティングセンターに寄った。

始めは65キロでもバットに当たらなかったけど
スーツにヒールのOLが珍しいらしく、
行くたびに誰かが教えてくれて。
今では90キロをスカーンと打ってストレス発散をしている。

金属バットの音がカキーン。カキーンと良い音で鳴り
ホームランゾーンに当たるとお祝いの音楽が流れた。

「いや。こんな綺麗なおねーさんが90キロ当てまくりだとは思わなかった」
「ふふ」

「ストレス発散」

そんな風に言えば、隣の大学生は
「なに?ストレスって?豪さん?」
「まぁね」
「いい男だろ?こんな田舎に引っ込んでるのがもったいないぐらい」
「・・・あの男、私に手を出さないのよ」

大学生にこんな事言っていいのか?
まぁ、良いか。

「う~ん」
と、少し考えた後、大学生は
「これはさ?俺が言ったってナイショだよ」
「うん」

「豪さんが、じいちゃんが死んだあとに畑を継ぐって帰ってきたのが
え~っと10年ぐらい前かな?
俺は小学生だったから」
「うん」

「その時、一人で来たんじゃないんだ」
「え?」
「婚約者も一緒に来たんだよ」
「・・・・」
「響子さんみたいに綺麗な、都会のおねーさんって感じの」
「・・・・」
「豪さん、きっと都会の大学ではモテたんだろ。
小学生のオレから見てもかっこ良かったから」
「うん」

「そのおねーさんね」
「うん」
「1カ月持たなかったんだよ。こっちの生活」
「え・・・」
「帰って行ったんだ。都会にさ」
「・・・・・」

「だから。いつかは帰る響子さんにも手を出さないつもりなんだろ」

この子。よく分かってる・・・・

「よく分かるのね」
「田舎コンプレックス」
「え?」
「ここらへんで育った奴は誰しも田舎コンプレックスを持ってるんだ」
「うん・・・・」

「やっぱり、ここじゃ駄目なんだ。ってすごく悲しかったの覚えてるよ」
「・・・・そっか」

「響子さん、豪さんが好きなの?」
「ナイショ」
「豪さんの事、傷付けないでね」
「・・・・」

この子、見た目よりよっぽど大人なんだ。

「さて。後5ゲームぐらいやったら、買い物に行きましょう!」
「5ゲーム?100球!!」
「そうよ」
「おれ、筋肉痛になるから見てるよ」
「若い子がヘタレなこと言わないの!ほらやるわよ!」

私は、確かにここにずっといないオンナだけど。
でも始まっていない恋を諦めることはしたくない。

とりあえず。
5ゲーム打ったら、考えよう。

待ってなさいよ!豪!


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2014-11-27 15:00 | ・田園シンデレラ | Comments(4)