カテゴリ:・虹色の楽譜( 4 )

懸賞 懸賞

雑誌

懸賞 2017年 09月 05日 懸賞

たった今買ってきた雑誌を、座るのももどかしく、包装用の紙袋を開ける。
紙袋のセロテープのところが少し破けた。

そんなことも構わずに。開いてすぐの特集ページに釘づけになる。

「奏くん・・・だ」

そこには正装をしてグランドピアノの前に座る奏くんの写真が
A4の雑誌いっぱいに写っていた。

ひとしきり眺めた後、文章をざっと読む。
後でゆっくり読むけど。
今はとりあえず読む。

「クラシック界のみならずジャズ界にもファンは多く新世代のアーティスト。
日本ツアー時はコンサートホールでの全国ツアーの傍ら、横浜にあるレストランでサプライズライブをする事でも有名。
その繊細なタッチと大胆な技術に才能を感じずにはいられない。
音楽を愛する全ての人がその才能に魅了され、彼の演奏を聴きに足を運ぶ」

凄い。
先月のコンクールタイトルをとった時からあらゆる雑誌で絶賛だ。

「茜さん」
「なに?」
「そろそろ、行く用意をしない?」

今日は片桐さんが知り合いを集めて祝賀会を開いてくれる。

「まだ時間あるじゃない」
「少し早めに出て、横浜をデートでもしようと思ったんだけど」
「ん~・・・これ読んでから!」

「茜さん」
「ちょっと待って。すぐ読んじゃうから」

「茜さん」
「みて!この写真!よく撮れてる!」

「茜さん」
「もう!この記事読みたいの!」

「茜さん。僕はここにいるよ」

そう言って雑誌と私の間に絶賛されていた音を紡ぎだす手のひらをかざした。

「・・・・」
「本物がここにいるんだけど」

少し機嫌の悪くなった声で、そういうから
目の前の手をとって指先にキスをする。

「ごめんね」
「良いけど・・・」

それでも機嫌の治らない奏くんに

「自慢したっていいじゃない?6年も待ったんだから」
「だれに?ここには2人しかいないんだけど」
「気持ちの問題よ」
「ふ~ん・・・・で?だれにさ?」

「世界中に。そして私自身に!」

奏くんは真っ赤になってフッとそっぽを向いた。



END*****




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by ichigo-ichigo205 | 2017-09-05 15:00 | ・虹色の楽譜 | Comments(2)

曲をあなたに

懸賞 2016年 11月 26日 懸賞

日本を離れる前に、片桐さんと響子さんがレストランに
奏くんと私を招待してくれた。

楽しく、美味しい料理をいただいて、デザートの前に
豪さんが奏くんに1つの鍵を手渡した。

「なに?何の鍵?」

奏くんのその質問に豪さんは静かに笑いながら、目の前のスタインウェイを親指で指さした。

「こいつは奏以外に弾かれたくないんだと」

そういう豪さんを響子さんは優しく笑った。

「違うでしょ。豪が奏くん以外に弾かせたくないんでしょ」

「響子は黙ってろよ」
そういって笑いながら響子さんのほほにキスをする。

「このピアノは奏のためにここにある。
またここに来た時に弾いてやってくれ」

調律は任せておけ。
豪さんはそう言ってウインクした。

「そうだ。私の好きな曲をお願いしてもいい?」
響子さんはジャズの曲名を言った。

「クラシック奏者にジャズをお願いするって失礼かしら?」
「まさか。喜んで弾くよ」

そういって奏くんは響子さんのリクエストの「Fly Me to the Moon」をキレイに弾いた。

「豪。私を月に連れて行ってね」
響子さんはそう、豪さんに笑いかける。

素敵なカップルだと思う。
響子さんの月はきっと豪さんの腕の中にあるんだ。

その曲を弾き終わると、奏くんはきらきら星を弾き始める。

私たちの思い出の曲だ。

「村松さんは・・・奏くんにとってきらきら光る星なのね」

響子さんがそういってくれた言葉には
会えなかった6年間が込められているようで泣きそうになる。

その曲を聴きながら、嬉しそうに奏くんが私に笑いかけた。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2016-11-26 15:28 | ・虹色の楽譜 | Comments(2)

七色のプロポーズ

懸賞 2015年 11月 03日 懸賞


3か月ぶりに日本に帰国した奏くんはこっちが心配するほどの忙しさで。
色々な所でコンサートや取材で日々スケジュールが詰まっていた。

「茜さんごめんね。なかなかゆっくり会えなくて」と
電話で謝ってくれるけど。
同じ国内にいるんだ。と思っただけで幸せだった。

「明日は夕方から豪さんのお店で弾くことになっているんだ。
1番前の席を予約したから、6年前と同じように仕事帰りに来てくれる?」
奏くんがそう言った。

「うん。楽しみにしてる」
そう言って電話を切った後、6年前のことを思い出した。
毎日のように、お店で奏くんとデートしたっけ。

懐かしく思い出して仕事帰りにお店に行くと、
まだお客さんは誰もいなくて。
1番前の席に案内される。

ピアノにスポットライトが当たって。
6年前と同じように、正装した奏くんがピアノを弾き始めた。

料理が出されて、それからボーイさんの姿もお客さんの姿も見えない。

1曲弾き終わった後、奏くんが
「今日は、このお店を貸し切りにしてもらったんだ」
と、優しい音を奏でながら話し出した。

「6年前、ここで茜さんに出会わなかったら、今の俺はいない」
「奏くん・・・」

「モノトーンだと評された俺の音は、茜さんによって色が付けられて
そして。世界に行くことが出来たよ」
「うん」

「ありがとう。茜さん」
「・・・・」

「この曲、覚えてる?」
と、二人にとって懐かしい思い出の曲を弾いてくれた。
「うん。私たちの曲だね」
こんなに楽しいんだから、この曲は俺たちの曲にしよう。
笑いながらそう話したっけ。

「茜さん。今から半年間、ヨーロッパツアーが始まって
半年間は多分日本に帰ってこれない」
「うん。分かった」

「半年後、ほんの少しだけとツアーの後休みを取るから、
一緒に過ごさないか?」
「え。ホント?日本で?海外で?」

「海外で」
「うん。一緒に過ごしたい!どれぐらい?有給を取るわ」
「有給じゃなくて・・・・」
「ん?」
「俺の身勝手で申し訳ないけど、辞めることは可能だろうか?」
「え・・・?」

「茜さんが今の仕事を楽しんでいることは知っているけど。
俺のことを支えてほしいんだ。それを一生の仕事にしてくれないかな?」

「奏くん・・・・?」

「休暇が終わった後も、ずっとずっと一生一緒に過ごしてほしいんだ」
「奏くん!」

「拠点を日本に出来ればいいのかもしれないけど。
まだまだクラシックは向こうのほうが需要もあるし、
まだまだ勉強したいことも多いんだ。もう離れて暮らすことには耐えられない」
「奏くん!」

「結婚してほしい。
あの時―――。この店で俺に出会ってしまったことが
1つの運命だと、笑って諦めてくれたら嬉しいよ。
いきなり海外に一緒に来てくれと頼む無謀は承知してる。
けど、愛しているんだ。茜さんだけを。一生俺を支えてほしい」

いろいろな思いが、このお店での思い出と共に心に流れた。

このお店で、私たちは出会った。

そして辛い別れの間、私を支えてくれたのは
このお店だった。

そして私は、今、このお店で奏くんにプロポーズされたんだね。

「奏くん。会社には有給届けじゃなくて退職願を出すわ」
「茜さん」

「その曲を一生私の為に弾いてね」

「もちろん」

私は奏くん自身と、その指が紡ぎだす七色の音にキスをした。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-11-03 16:48 | ・虹色の楽譜 | Comments(0)

名刺

懸賞 2015年 06月 09日 懸賞

豪さんのレストランでピアノの練習をしていると
ニヤニヤしながら豪さんが野菜を持ってやってきた。

「おい。奏。これ」

そう渡されたのは・・・名刺?

ピアニスト 小野寺奏
pianist Onodera Kanade

「何これ・・・」
「お前の名刺だよ」
「分かるけど。こんなの使わないよ」

「お前さぁ。大学生だろ?もっと遊べよ。
イイオンナいないの?大学に?」
「・・・・」
「合コンしろよ。ピアノ演奏は不定期って客には言ってある。
意味分かるか?お前が急に合コンが入ってもいいように、だ」
「・・・・・曜日を決めてもらっても構わないよ。合コンなんかしないし」

「遊べ!音大生なんかモテんじゃないの?」
「・・・・」
「俺の大学時代の話を聞きたいか?」
「・・・いや。いいよ」
「おまっ!かわいくねーな」

「とにかく!イイオンナがいたら、大学でも、合コン先でも渡せ!
店の客だったらボーイに渡してもらえ!俺が店のボーイには話といてやる!」
「はぁ?いいよ」

「いや。話しといてやる。その名刺絶対使えよ!
店の名前も入ってるからな。宣伝だと思って配りまくれ!」

ニヤッとして、厨房へ野菜を届けに行ってしまった。
はぁ・・・

こんなのお客さんに使う訳ないだろ。

そう思ってロッカーに入れっぱなしだった名刺を
演奏と演奏の合間に、急いで1枚取りに行った。

「あの、ブルーのワンピースの女性?」
俺には渡すチャンスがないから、仕方なく豪さんに言われたようにボーイに頼んでみた。

ボーイはニヤッと笑って
「任しといて。男がいない隙に渡しといてやるよ」

たった1枚だけ使われた名刺の残りは
ケースに入ったまま。
今でも俺の名前がついた店のロッカーに入れてある・・・・


END******
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by ichigo-ichigo205 | 2015-06-09 17:00 | ・虹色の楽譜 | Comments(0)