カテゴリ:・悠久の恋の果てに( 3 )

懸賞 懸賞

七夕の誓い

懸賞 2016年 07月 07日 懸賞

「みさを、ちょっと来てごらんよ」
夕げの前に坊ちゃんが庭に私を呼んだ。

「今日は珍しく晴れたな」
坊ちゃんが見上げた上には天の川が見事に輝いていた。
「太陽暦に変えてから、七夕さんは梅雨の時期に重なって
ひこ星様とおり姫様もなかなかお会いできませんもんね。
今年は晴れてよかったです」

私たちが生まれる少し前に政府は太陰暦を改めて太陽暦にしたから
七夕さんがいつも雨だ。と
ばあちゃんが良く言ってたっけ。

「ひこ星とおり姫も世の中に振りまわされてるな。僕たちと同じだ」

坊ちゃんはそう言って寂しそうに笑った。

「こうやってみると、天の川もひとめで見れるけれど
実際はものすごい距離なんだろうな」
「そうですねぇ。それでも会いに行くなんて凄いですね」

「みさを・・・・」
「はい」
「何年たっても、何十年たっても、何百年たったとしても。
必ずお前を迎えに行くよ」
「・・・・・」
「いつの日か、身分なんか関係ない世の中が来るさ」
「はい・・・・・」
「待ってて。僕だけを待ってて」

そう言って坊ちゃんはそっと私の手を握った。


会社のエントランスで待っていると
退社の人を縫うように大久保さんが待ち合わせ場所まで急ぎ足で来た。

「ごめん。待たせた」
「いえ。大丈夫です。それより・・・良いんですか?この時間に帰って」
「大丈夫。算段は付けてあるから」
「はい」
「じゃぁ、行こうか」

そのあと大久保さんに誘われて、旧大久保男爵邸があった赤坂まで来た。
あたりはすっかり変わっていて。
あのころの大きな屋敷や敷地は見る影もなかった。

それでも記憶をたどって、恐らくこのへんだと目星を付けた裏路地で
2人で空を見上げる。

今日は七夕だ。

「100年、経ったけど。美緒。キミと再び出会えたことを
この場所で100年前の僕たちに報告したかったんだ」

大久保さんは自分のことを無意識に「僕」と言った。
普段は「俺」なのに。
前世の記憶を呼び醒ましているのだろう。

「恋焦がれて、恋焦がれて。それでも一緒になれなかった100年前の僕たちに。
今こんなに幸せだと教えてやりたかった」
「はい」

「100年分、大切にするよ」
「は・・・い」
「これから先の100年も一緒に過ごして行こう。
今の俺たちには、それが許されている」

許されている―――

今の時代の当たり前が、
どれほど私たちにとって幸せなことなのか。

私はぎゅっと大久保さんを抱きしめた。

みさを。今の私は幸せだよ。

私も心の中で100年前の私に報告した。

END*****




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by ichigo-ichigo205 | 2016-07-07 12:01 | ・悠久の恋の果てに | Comments(0)

学友

懸賞 2015年 10月 13日 懸賞

「うん。それで?」
かあ様とヨシの目を盗んでみさをと二人であんみつを食べに来た。
これが僕の1番の至福の時だ。

「奥様の小紋の洗い針をして頂くために、仕立て屋までお使いに行ったんですが
どうにも迷ってしまいまして」
「うん」
「おマサさんの書いて下すった地図を見たんですが・・・」
「うん?」

そこでみさをが言い淀んだ。
「曲がる場所などが字で説明してありまして・・・」
「あ・・・ぁ」

みさをは字が読めない。
マサは僕に贔屓されているみさををよく思っていなくて
事あるごとに意地悪をする。

「困っていたところを助けて下すった学生さんがいまして」
「それは良かった」
「お礼を言う時に名乗りましたら、坊ちゃまと同じ帝大の学生さんだと言うじゃありませんか。
やっぱり帝大ともなるとお優しい方ばかりなんですねぇ」

そう言って、お礼を言っておいてください。とみさをは上機嫌であんみつを食べた。
僕は、みさをを見ながら「これか」と思い当たった。

今日、大学である男にいやみを言われた。
「大久保男爵では字の読めない女中に字で説明した地図を渡すのか」と。
彼は苦労して奨学金で高校を卒業し、その才能を見込まれて
明石男爵の後ろ盾を受け大学に来ていた。

そんな苦労人の彼は、大久保の名前で金に苦労したこともない僕をどこか鼻で笑っていた。

「マサに注意しておこう」
「いえ!いいえ・・・字が読めないのはあたしが悪いんですから」
「みさをは何も悪くないよ」

時代が悪いんだ。

そう口に出せない言葉を飲み込んで。

今日、いやみを言われた男との会話を思い出した。

「君たちは字が読めない者がいることすら知らない世界に生きているのか?」
そう言った彼の目は冷たかった。
もし、この正義感あふれる男と同じ境遇に生まれていたのなら
友になれたのだろうか。

「何の事だかわからないが、うちの者が世話になったのだったら礼を言うよ」
「・・・・髪をお団子にして。赤いカスリの着物の女の子だった」
みさを・・・か?

「これをその子にあげてほしい」
彼が差し出した物は小学校で習う、1番最初の教科書だった。

使いこまれていて、恐らく兄弟全員がこの教科書で勉強したんだろう。
一人が使った傷み具合じゃなかった。

この男が、みさをにこれをくれると言うのは一体どんな気持ちなのだろう。
きっと大切なものだからこそ、今でもとってあるのだろうに。

「気持ちはありがたく頂くよ。でもこれは頂けない」
「男爵家は人から施しを受けてはいけないのか?」
ハッと、小馬鹿にしたように睨みつけた。

「いや。ありがたいと思うよ。それ大事なものだろう。
うちのモノが字が読めないのに字が書いてある地図を渡していたのは
うちの問題だ。注意しておくよ」
「じゃぁ、これを、あの子にあげてくれよ」

「それとこれとは別問題だ」
「・・・・・」

「その子は僕の好きな子なんだ」
「え?」
「字が読めないのは前から気になっていたんだけど
その子の仕事の忙しさに後回しになっていた」
「好きって・・・・」

「好きなんだ」
「・・・あの子使用人、だよな?」
「そうだよ」

「そうだよ、って」
「僕たちは一緒になれないと分かっている。
叶わない恋だと分かっている。
そんなことはお互いが1番分かっている。
僕は、男爵家の嫡男としての責任も分かっている
好きな女性と一緒になれないなんて、物心がついた時から百も承知だ!」
「・・・・」

「でも、止められないんだ。それが恋心だろ?」
「・・・・」

「その本を、断るのは男爵家としてのケチなプライドなんか関係ない」
「・・・・」
「好きな女に対する男としてのプライドだ」

そう言いきった僕を見て大声で笑い出した。

「大久保君、君とは生まれる時代が違ったら友になれたかもしれないな」

そう言って僕の肩をたたいた。


彼も、今どこかで生まれ変わっているのだろうか―――
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by ichigo-ichigo205 | 2015-10-13 16:12 | ・悠久の恋の果てに | Comments(2)

名前を呼んで③

懸賞 2015年 06月 18日 懸賞

「美緒、何やってるの?」

日曜日の午後。
うちに来ていた美緒がハッと気づいて何やら手帳に書きだした。
俺はコーヒーを淹れながら見ていたんだけど、あまりの熱心さに苦笑いして聞いてみた。

「昨日の夢で、昔、占いで遊んでいたのを思い出して。
結果がどうなったのか気になって、やり方を思い出しながらもう1度占ってみようと思ったんです」

美緒はたまに前世の夢を見るようになった。
少しずつ。細かいところまで夢で思い出すようになった。

「へぇ・・・占いねぇ」

コーヒ―をテーブルに置いて、手帳を覗きこめば
俺の前世の名前と、美緒の前世の名前が書いてあって何やら画数から計算していた。

「馨とみさを?」
「はい。夢では結果が途中で」
「あのさ・・?それって今占って意味あるのか?」

前世の相性を今更占っても意味ないだろ?

「今を占えばいいんじゃないの?」
「今、ですかぁ~・・・」
そう言いながら、書く手を止めないって事は、占いの結果を知りたいんだな。

「占ってよ。今の俺たちを」
「う~ん・・・・」
乗り気じゃないな。

「まさか、俺の名前知らないの?」
「し!知ってますよっ!」
「ふ~ん。じゃぁ占ってよ」
「・・・・・」
「知らないんだろ・・・?」

「薫さま・・・です」

「は?」

美緒の発した言葉にビックリした。
さまぁ?

「え?なんて言った?」
「薫さまです」
「いや。俺と美緒は今は身分の違いなんかないんだからさ・・・何その呼び方」

「だって・・・前世と同じ名前なんですもの」
「うん・・・でも馨と薫で漢字が違うだろ!」
「それは呼ぶ時に関係ないので・・・」
「・・・・」

いや。まいった。
様、ときたもんだ。

「それ・・・どうにかならない?」
「なりませんよっっ!私にとって、かおると言えば、馨坊ちゃん、そして馨さまですっ!」
「・・・・はいはい」

美緒も頑固なところがあるからな。
前世から変わってない。

思わず、笑いがこぼれて、これ以上いじめるのはよそうと思った。

「じゃぁ、呼び方は良いからさ。今の名前で占ってよ」
「それは嫌です」
「?なんで?」

「結果が悪かったら・・・あまりにもショックです・・・」

下を向いてそんな風に言う美緒が可愛くて抱きしめずには居られなかった。

「大丈夫。占いの結果が悪くても俺たちの未来は俺たちが決めて行くんだから」

「薫さん・・・・」

思わず小さく呼んだ俺の名前が「さん」だったことは聞かないふりをしてあげた。


END*****
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by ichigo-ichigo205 | 2015-06-18 12:00 | ・悠久の恋の果てに | Comments(2)