カテゴリ:・キミの体温 僕の吐息( 2 )

懸賞 懸賞

花火大会①

懸賞 2018年 08月 21日 懸賞

「お母さん!これでいい?」

私の25年前の浴衣を着て、のぞみがせわしなく鏡の前でクルクルする。

「新しいの買えばいいのに」
「これでいいの」

25年前に、新田くんのために買った浴衣だ。

「こんな柄、今はないし」

レトロなのが逆に娘に喜ばれる。

横浜の花火大会に、休日出勤だった山田君が急に都合がついたようで
昨日から大騒ぎだ。

「さぁ、行ってらっしゃい」

歩きにくいだろうと少し早めに娘を送り出して
リビングに戻れば25年前から大好きな人が、読んでもいない新聞を広げていて
「行ったのか」
なんて平静を装って私に聞いて来る。

「気になるなら自分で見ればいいじゃない」

山田君に不満はないくせに難癖をつけたがるのが父親の様で。
だから私もからかってみる。

「経管だしね」
「ん?」
「山田君、いい人だけど経管って言うのが難よね」
「なんだ?経管の妻になった癖に」
「だから、よ。良く分かるわ」

そう言って、元経管の男の隣に座る。

「へぇ」
「夜は遅いし、休日出勤はするし」
「うん」
「仕事が大好きだし」
「そうだな。ありがとう」
「文句を言ってるんですけど」
「それでも、愛してくれてるんだろう?」
「まぁ、ね」

「洋子も早く浴衣を着ろよ。加賀の家に行くの遅れるぞ」
「もう!話をそらして!」
「1年に1回の洋子の浴衣姿を見るのが楽しみなだけだよ」
「でも、経管は浮気しないのよね」
「そう。洋子だけ」
「のぞみも幸せになれるわね」
「山田が浮気したら左遷だしな」

そんな言葉に私は苦笑いして、
「浴衣着てくる。ちょっと待ってて」
私も好きな人のために浴衣に着替える。


END*****





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by ichigo-ichigo205 | 2018-08-21 15:29 | ・キミの体温 僕の吐息 | Comments(0)

白い吐息と・・・

懸賞 2017年 12月 31日 懸賞

付き合って2年。
あれから毎日、大切に大切にしてくれて
自分が新田くんにとってとっても特別な存在だと感じさせてくれる。

新田くんの仕事はものすごく忙しくて
すれ違いの日も多いけど
出来る限り10時になる前に家に電話をくれる。

前日に無理をしても2人のイベントには必ず休みを取ってくれて
私は毎日新田くんの愛を感じながら過ごしている。

そんな年末に新田くんが
「悪い。ゴールド・コーポレーションの新年会に出なきゃいけなくなった」
と不機嫌そうに言った。

ゴールドはウチの大得意先の外資系でここ数年の取引額は目を見張るものがある。
外資系で毎年1日に新年会を催すので有名だけど
ウチからは海外事業部の部長が出席していたはずだ。

「海外の部長が都合悪くて俺に回ってきた」

本来なら経管とはいえ主任になったばかりの新田くんが部長の代理出席するのは
ある意味大抜擢で異例だ。
だから、喜んでいいはずなんだけど

「新年初日に洋子と過ごせない」

なんて機嫌が悪い。
この調子じゃ、1度はお断りしたんじゃないか、なんて思っちゃう。

小さく笑った私に、さらに不機嫌になって
「洋子は俺と新年を過ごせなくていいのかよ」
なんて子供ぽいことまで言う。

いつも忙しいけれど、仕事より私を大事にしてくれていることは
ずっとずっと感じてた。
ありがとう。

「1日はずっと一緒にいられないけど、朝は一緒に居られる」
「うん」
「初日の出を見に行こうぜ」
といい考えが浮かんだと機嫌が直った。

1月1日の朝早くに待ち合わせをして。
赤いアウディに乗っていつもの道を通っていつもの葉山マリーナに着いた。

「もしかして船を出すの?」
「出すよ。誰もいない海の真ん中で二人きりで初日の出を見るぞ」

そう言って寒い中出航の準備をする。

初めてのデートから何回もこの船に乗せてもらったっけ。
初デートを懐かしく思いながら、私もこの2年で少しずつ覚えた準備を手伝った。

いつもとは違う方向に動いているクルーザーに
「どこに行くの?」
「秘密」
嬉しそうに答えて

着いた先は、横浜港だった。

秋に完成したばかりのベイブリッジが誇り高く横浜港を横断している。
そして丁度登り始めた太陽は、そのベイブリッジとリンクして
真っ赤な火の玉になって目の前に現れた。

「すごい」

誰もいない海の上から
ベイブリッジの向こうの水平線から太陽が1990年を照らし出した。

「ベイブリッジの建設はウチも関係してて」
「うん」
「このベイブリッジと初日の出の景色が見れるのは今年が初めてなんだ」
「うん」

「この初めての景色を洋子に見せたかった」
「うん。すごく綺麗だね」

「俺の仕事はますます忙しくなる」
「うん」
「ベイブリッジに象徴されるように大きな仕事をしていきたい」
「うん」

「その人生を一緒に歩いてくれないか?」
「えっ・・・」
「ずっと一緒に居たい。一生キミを大切にすると1990年のこの奇跡的な景色に誓うよ」
「新田くん」

「洋子、愛してるよ」
「私も。私も一生新田くんのそばに居たい!
新田くんのなしえる仕事を一緒に感じたい」

火の玉だった太陽が徐々に太陽光を発し始めてまぶしくなってきた。
1990年が明けた。

真っ赤な太陽に、真っ青な海。
真っ白な吐息の中、冷たい私の左手にそっとダイヤの指輪をはめてくれた。

ぎゅっと抱きしめられたその耳元で
「あったかい」
新田くんはそう呟いた後・・・

「ずっとずっと、俺の吐息を感じる距離にいて」

白い吐息とともにそう呟いた。


END*****







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by ichigo-ichigo205 | 2017-12-31 01:10 | ・キミの体温 僕の吐息 | Comments(6)